Facebookと肖像権~「俺の写真を勝手に公開するな」という権利はある?



Facebook上で、「●●と一緒に●●に行ったよ!」というような書き込みや、友達の顔が写っている写真の公開を行う人がいる。このような書き込みを勝手に行われると、様々なトラブルが発生しかねない。自分の許可なく自分の情報や自分の顔写真をFacebookに掲載するな!……と、言えるのだろうか?

執筆:法務博士 河瀬 季(tokikawase.info


勝手に写真を公開されるとトラブルに巻き込まれかねない

自分の顔写真などをFacebook上で勝手に公開されるのは不愉快だ!……と感じる人もいる。
上司やクライアントに対して「今外回り中です!」「頑張って働いています!」などと言いつつ遊びに行っていたことや、「ごめんその日は家族の用事があって」と嫌な同級生からの誘いを断って学校外の友人と遊んでいたことが、一緒に遊んでいた友達がアップした写真のせいでバレてしまうかもしれない。仕事やプライベートの人間関係的にも問題だ。

「顔写真をアップするかどうか自分で決める権利」?

Facebookで公開する情報や写真は、自分で決めたい。……というのが、この問題の本質だろう。

「○○に行ったことは公開するけど、●●に行ったことは公開しない」
「この写真は公開するけど、あっちの写真は写りが悪いから公開しない」

このような「決定」を行うのは自分だ!友達ではない!、と、いうことだ。
自分が持っている(と思われる)、この「決定」を行う権利を巡る問題なのだ。

現在のFacebookはどんなシステム?

この問題に関して、Facebookは三つのシステムを用意している。

1: 自分のタイムラインに表示するか否かは自分で決定できる



自分のタグが付けられた写真などの投稿を、自分のタイムラインに表示するかどうかは、自分で決定できる。ただ、これは「自分のタイムラインに表示するか否か」の問題だ。これを拒むにせよ、その写真は友達のタイムラインには当然に表示される。

2: 友達に対して削除を求めることはできる

自分の写真などについて、それを投稿した友達に対し、「写真を削除して」と要請するシステムはある。……別に「システム」でなくても、メッセージで頼めば同じ事なのだが、一応「システム」という形で用意されているわけだ。

3: 問題のある写真なら、Facebookに対して削除を求めることができる

「スパムまたは詐欺」などの場合は、Facebookに対して削除を要請できる。単に「不愉快である」といった理由でも、一応削除の要請はできる。ただ、要請に対してFacebookが応じてくれるかは分からない。



「2: 友達に対して削除を求める」のが基本で(左)、「3: 問題のある写真なら、Facebookに対して削除を求める」こともできる(右)。

Facebookの対応は不十分だ!

……ということで、まとめると、大まかに以下のような仕組みだ。

(A) 犯罪や利用規約違反などについてはFacebookに対して削除を強く求められる(3前半)
(B) それ以外は当事者同士で「消して」と頼むのが基本(2)
(C) とはいえ、Facebookに要請すれば消してくれることもある(3後半)

即ち、上述の「決定を行う権利」は実現されていない。

(B)は「決定を行うのは友達」という前提の上で「友達に頼めば良い」とするもの((C)がその一部例外)
(A)は「およそ自分に関する書き込み」ではなく「犯罪等」のみを対象とするもの

だからだ。

「自分が決める権利」はあるのか?

問題なのは、そもそも、上述の権利は「法律的に認められる権利」なのか、ということである。
そして結論として、いわゆる「プライバシー権」や「肖像権」というものは、法律的には

「自分に関する一切の情報の公開を決定するのは絶対に自分だ」
「自分の一切の顔写真の公開を決定するのは絶対に自分だ」

という主張を認めるものではない。


日本音楽事業者協会の「肖像権について考えよう」に即して説明すれば

1. いわゆる「肖像権」には「プライバシー権」としての側面と「パブリシティ権」としての側面がある。後者は顔写真の財産的価値に着目した権利だから、筆者など一般人には認められない。残念ながら、筆者の顔写真に広告としての価値はないからだ。
2. 「プライバシー権」は筆者など一般人にも認められる。しかし、あくまで「みだりに公開されない」という権利(または法的保障)であり、「みだりでなく公開される」ことまでを禁止できる権利ではない。

と、いうものだからだ。

Facebookのシステムは肖像権侵害?

Facebookのシステムは、基本的には

(A) 「プライバシー」とかいう以前に、犯罪や利用規約違反などに該当する写真は、Facebookが問答無用に削除する
(B) それ以外の写真について、上記の「決定」を行う権利を持つのは友達であり、自分ではない
(C) ただし「みだりに公開」されているものについては、Facebookに削除要請を行えば消して貰える(はず)

というものだ。(B)(C)の隙間、つまり、「みだりでなく公開」される情報や写真の扱いについて、自分が「決定する権利」を持っているはずだと考える人は、「違和感」を感じることになる。

もちろん道徳的には相手に聞くべきだろう

法律的な結論がどうであれ、友達の写真をアップする場合には、あらかじめ「アップして良い?」と聞くことが、道徳的には望ましいだろう。しかし、自分がこの「道徳」を守るとしても、守ってくれない友達や知人も、いるかもしれない。その場合、Facebookのシステム上、そして法律上、Facebookに対する削除要請は無制限には認められないのである。

法務博士 河瀬 季
東京大学 法学政治学研究科 法曹養成専攻 卒業。
2002年から「tokix」名義で、雑誌「ネットランナー」「PC Japan」への寄稿、書籍「iPod for コレクターズ」の全編執筆など、多数の雑誌・書籍における執筆活動を行う。2009年に東京大学の法科大学院(ロースクール)に進学し、2013年に司法試験に合格。

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2013年07月21日15時43分 公開 | カテゴリー: ソーシャル | キーワード:, , , | Short URL
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