Facebookで付きまとわれたら法律が守ってくれる?~ストーカー規制法とSNS



Facebookで付きまといを行った佐賀県職員が、停職1ヶ月の処分を受けた。昨年セクハラ行為をしたとして停職3カ月の懲戒処分を受けた職員で、その時のセクハラ行為の相手である女性に対し、友達承認などを求めるメッセージを計6回送信した、とのことだ(参考:フェイスブックで付きまとい 佐賀県職員を停職1カ月 – MSN産経ニュース)。
ただ、これはあくまで「公務員としての懲戒処分を受けた」という話であり、「ストーカーなので逮捕された」とか「有罪になった」とかいう話ではない。いわゆる「ストーカー規制法」は、一言で言えば「ストーカーを逮捕する法律」だが、この職員は「ストーカー」にならないのだろうか?
SNSでの付きまといとストーカー規制法について検討する。

執筆:法務博士 河瀬 季(tokikawase.info


「ストーカー規制法」ってどんな法律?



いわゆる「ストーカー規制法」は、以下のような法律だ(参考:ストーカー規制法:警視庁)。

A. (恋愛感情orそれが満たされなかったことの恨み)を満たす目的で、待ち伏せしたり無言電話をかけたりする行為(※1)を「つきまとい等」という。
B. 「つきまとい等」を何度も行うことを「ストーカー行為」という。「ストーカー行為」は刑罰の対象。

(※1)として「つきまとい等」のパターンがリストアップされている。ストーカー規制法が元々「つきまとい等」としていたのは、待ち伏せなどリアルでの行動や、電話・FAX・郵便を使う行動のみ。ネット上での行動が挙げられていなかったのだが、6月に成立した改正法では、メールも「つきまとい等」に加わった。
しかしSNSでの付きまとい行為に関しては、追加が見送られた。今後の法改正が検討されるべきだろう。

Facebookでは何をしても「ストーカー」にならない ← まちがい

……と、以上のような言説が、特に6月の改正法成立時に見られた。

SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)による嫌がらせも急増しているが、改正法の条文で新たに対象に加えられたのは電子メールのみで、それ以外のSNSは規制の対象になっておらず
メールも対象に…改正ストーカー規制法成立 | 日テレNEWS24

しかし、これは「SNSで何をしてもストーカー規制法で逮捕されることはあり得ない」という意味ではない。
(※1)として挙げられている、「つきまとい等」のパターンには、大まかに以下のようなものがある(参考:不安を覚えさせるような方法)。

1. リアルにおいて、待ち伏せしたりするなど
2. 任意の手段により、「お前を監視してるよ」的なことを伝えること
(中略)
9. 「拒まれたにもかかわらず、連続して、電子メールを送信」←NEW

「パターン」ごとに、「リアル限定」「メール限定」だったり、「任意の手段により」だったりするわけだ。そして後者の場合、方法には限定がなく、メールもSNSも当然に含まれる、と考えられている(参考:ストーカー行為等の規制等に関する法律等の解釈及び運用上の留意事項について(通達))。実際に、パターン9が追加される以前に、後述するパターン3をメールで行ったケースを有罪とした裁判例などがある(東京高等裁判所(刑事)判決時報54巻1~12号18頁)。
つまるところ、「SNSが規制対象になっていない」というのは、「1など(特に9)にSNSが含まれない」ということに過ぎないのだ。
任意の手段により」なパターンは以下。

2. 「お前を監視してるよ」的なことを伝えること
3. 「会ってくれ」「付き合ってくれ」的な要求をすること
4. 著しく(粗野or乱暴)な言動をすること
7. 相手の社会的評価や名誉感情を害することを伝えること
8. エロ写真などを送ること

これらは手段を問わないので、SNS上で行うことも「つきまとい等」に該当し、何度も行えば「ストーカー行為」になるのだ。
……ちなみに、これは本題と関係ないが、1,2,3,4は不安を覚えさせるような方法に限られる。だから、必ずしも「『付き合って』と何回か言ったらストーカーになる」というわけではない。

ブロックでの自衛と法律による防御

今回の事件は、

セクハラ行為の相手である女性に対し、友達承認などを求めるメッセージを計6回送信した

ということで、該当するとすれば3なのだろうけど、「友達承認などを求めるメッセージ」が「会ってくれ」「付き合ってくれ」的な要求(実際の文言は法2条1項3号参照)と言えるのか、という点に議論があり得そうだ。



「SNSでは何をされても我慢したりブロックなどで自衛したりするしかない」というのは間違いだ。2,3,4,7,8のパターンであれば、ストーカー規制法を利用することができる。特に、ブロックしてもすぐに別のアカウントを作って(2,3,4,7,8的な)メッセージを(何度も)送ってくる、というような相手に対しては、ストーカー規制法による防御を検討すべきだろう。

法務博士 河瀬 季
東京大学 法学政治学研究科 法曹養成専攻 卒業。
2002年から「tokix」名義で、雑誌「ネットランナー」「PC Japan」への寄稿、書籍「iPod for コレクターズ」の全編執筆など、多数の雑誌・書籍における執筆活動を行う。2009年に東京大学の法科大学院(ロースクール)に進学し、2013年に司法試験に合格。

参考

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2013年07月25日08時00分 公開 | カテゴリー: ソーシャル | キーワード:, , , | Short URL
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