他人の犯罪や迷惑行為をTwitterやFacebookで晒すと名誉毀損になる!?



TwitterやFacebookなどで、「街で犯罪をしている奴を見かけた」「飲食店のバイトがこんな迷惑行為をしていた」というような投稿を行う人がいる。しかし、顔写真などをアップしてしまうと、犯罪や迷惑行為の「告発」であったとしても、名誉毀損にあたり得る。このような「告発」を行うことは、どこからがアウトなのだろうか?

執筆:法務博士 河瀬 季(tokikawase.info


犯罪を晒しただけで「名誉毀損」になる!?

「名誉毀損」の判断枠組みを簡単に述べると

1. 事実の公開(摘示)で他人の評価を下げたら、原則として名誉毀損
2. しかし「犯罪」や「迷惑行為」については、例外として名誉毀損にならない場合もある

という感じだ。

1. 「本当のこと」でも「モザイク付き」でも名誉毀損?

「犯罪/迷惑行為をしてた!」という事実の公開は、その人の評価を下げるものだから、1には該当する。しかし2に該当して名誉毀損にならない場合もある。
よく誤解されているが、本当のことを書いたとしても、名誉毀損は成立し得る。1で問題にされるのは「評価が下がるか」であり、「本当か嘘か」は関係がないからだ。また、顔にモザイクをかけたとしても、誰なのか判断できるのであれば、名誉毀損は成立し得る。これらについては別記事を参照して欲しい。

2. 「例外」に該当するための条件

2で「例外」に該当するには、以下のような3(4)条件が全て満たされる必要がある。

A. 皆が正当な関心を持つ事実であること(ただし、A’. 起訴前の犯罪に関する事実はOK)
B. 皆の利益のために公開したこと
C. 書かれている事実が本当のことである(または、C’. 本当だと信じるちゃんとした理由があった)
D. 論評が「やりすぎ」でない)

先に結論を述べると、これらの判断を行うための基準は、どうにも「クリア」とは言いにくい。従って、どうしても「グレー」と言える領域が広くなってしまう。しかし、それでも「白に近づけるための方法」は考えられるし、また、「グレーであるとはどういうことか」という問題もある。順に考えていこう。

A. 衛生などの問題や、A’. 犯罪でないとマズい

まず、A’. 起訴前の犯罪であればOKだ。問題は、A. 「犯罪」ではない「迷惑行為」の場合である。どういう場合に「皆が正当な関心を持つ事実」と言えるだろうか。
クリアな基準のない問題だが、例えば、「食べログ」などでの批判レビューについて、以下のような見解を述べる弁護士がいるようだ。

料理や接客態度の問題は主観的な要素も大きく、公益性も低いので名誉棄損に該当する可能性が高い
一方、店の食材や衛生の話題なら健康にもかかわるので、「公共の利害に関する」と認められる公算が大きい
ブログの辛口評価は事実でも名誉毀損 – 愉快痛快(^_^)奇奇怪怪(*_*;)

この見解には若干の疑問もあるが、仮にこの見解に従うのであれば、例えば「飲食店のバイトが食材で遊んでいた!」というのは「衛生の話題」であり、Aに該当する公算が大きい……となりそうだ。

発展的な話:未成年喫煙は「犯罪」ではない!?

簡単に言えば、罰則がないものは「犯罪」ではない。未成年喫煙は法律で禁止されているが、未成年自身には罰則がないから「A’. 犯罪」ではない。上記「A. 迷惑行為」の場合と同様に考える必要がある。
罰則がないものには、

・未成年喫煙や飲酒
・売春
・不倫(慰謝料請求などの対象になるが「姦通罪」などはない)

などがある。
例えば不倫に関する事実も、「(いわゆる)公人の不倫だから『皆が正当な関心を持つ事実』だ」となればOKだが、このような「理由」がないとアウト、ということだ。

B. 「面白半分」に見えるような言葉の使い方だとマズい

Bは「皆の利益のために」という、「目的」を問題にするものだ。このように、「目的」が問題になるケースについて、ネット上では、以下のような理解も見られる。

・面白半分にやった、と「自白」したらアウト
・皆の利益を考えた、と言い張り続ければセーフ

しかし、「目的」は、基本的には客観的な事実から認定される事柄だ。Bの場合、表現方法(言葉の使い方)などが問題にされる。

・客観的に「面白半分」に見えるような言葉の使い方だと危険
・客観的に「皆の利益を考えている」と見えるような言葉の使い方なら安全

というような考え方だ。

C. 「本当のこと」でないとマズい

C. 本当のことでなくても、C’. 本当だと信じる「ちゃんとした理由」があれば良い。しかし、C’が認められるためには、ネット上での書き込みであれ、マスコミの報道と同程度にちゃんと調査などした上でないとダメ……と考えられている。
SNSへの反射的な書き込みについて、C’が認められることは、まずないだろう。C. 客観的に「本当のこと」でない限り基本アウトだ。

D. マイルドな言葉で「論評」する方が安全

「事実の公開」と「論評」は区別される。単に写真をアップし「あんスマ中学の生徒が喫茶店で煙草吸ってた。」と書くだけなら「事実の公開」だが、「人間の形をしたゴミだね。」は「論評」だ。
D. 「論評」について、「やりすぎ」を行うとアウトになる。
ではどのくらいで「やりすぎ」になるのか……というのが問題だが、過去の裁判を見ると、結構エグい表現も「セーフ」と判断されている。


・対立する教師の行為について「愚かな抵抗」「お粗末教育」「有害無能」
・著作権侵害について「ドロボー」
・女子プロレスの経営などについて「ストリップと紙一重」

以上は、実際に裁判で「セーフ」と判断された「論評」である。……ただし、「当事者同士の対立や議論の中で行われた論評」と「突然噛みつく論評」は異なり、後者はある程度マイルドでないとアウト、という考え方は成り立つ。
ある程度ならエグくても大丈夫そうだが、マイルドにした方が安全性は上がる、という感じだ。

「法律的にグレーである」とは

以上のように、「犯罪や迷惑行為を晒すと名誉毀損になるか」というのは、クリアな基準がなく、グレーな領域が広い問題だ。こうした問題については、大きく二つの(それぞれ極端な)考え方があり得る。

・「100%白」と言えない以上、絶対に何が何でも避けるべき。
・「100%黒」と言えない以上、相手側も警察側も、なるべく裁判にはしたくないはず。「まずは『消して』と頼み、拒まれたら最後の手段として逮捕とか訴訟提起とかをする」という順序で来るはず。だから「消して」と言われない限り気にしなくて良い。

これらの間でどうバランスを取るか……ということになるだろう。

法務博士 河瀬 季
東京大学 法学政治学研究科 法曹養成専攻 卒業。
2002年から「tokix」名義で、雑誌「ネットランナー」「PC Japan」への寄稿、書籍「iPod for コレクターズ」の全編執筆など、多数の雑誌・書籍における執筆活動を行う。2009年に東京大学の法科大学院(ロースクール)に進学し、2013年に司法試験に合格。

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2013年08月07日12時00分 公開 | カテゴリー: ソーシャル | キーワード:, , | Short URL
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