男と女とスマホと法律~スマホの浮気/不倫チェックはどこから犯罪?



スマホには、通話やLINE、メールの履歴や写真、GPS情報などなど、浮気や不倫の証拠がギッシリ詰まっている。恋人や結婚相手のスマホから浮気の証拠を掴もうとした場合、どこまでが合法なのだろうか。浮気をしている側から見れば、どこから先は「犯罪だ!」と言えるのだろうか。
スマホを使った浮気証拠の収集テクやそれらの合法性について検討していこう。

執筆:法務博士 河瀬 季(tokikawase.info


そもそも「犯罪」とは?

法律の世界では、刑事の問題と民事の問題は、とりあえず別だ。
警察に捜査されて逮捕されて裁判にかけられ、検察官と「有罪か無罪か」を争い、最悪の場合には刑務所に送られる……というのが「刑事」の問題であり、これが「犯罪」。そして、相手(恋人など)が訴えてきた場合に裁判上で相手と争い、負けたら賠償金を払わないといけない、というのが「民事」の問題。
この記事では主に刑事について考え、民事の問題は最後にまとめて考える。

スマホを勝手に操作して中身を見るのは合法?

相手が置きっ放しにしているスマホを操作し、中のメールや写真を見ることは、犯罪ではない。
唯一問題になるとすれば、「メールを見る」のは刑法の「信書開封罪」という犯罪なのではないか?ということだが、これは「封をしてある」「文書(信書)」が対象。一言で言えば、ネット時代以前に作られた法律なので、メールなどをカバーしていないのだ。
「いや、封をしてある文書を勝手に見られたくないのと同様、メールだって見られたくないよ!」という反論はあり得るし、今後法律改正が行われることはあり得るが、少なくとも現行法には、こうした行為を処罰する規定はない。

スマホのロックを解除するのも合法?

では、スマホに画面ロックが設定されていた場合はどうだろうか。パスワードが誕生日だったりすれば、簡単に破れるが、これは不正アクセス防止法の「不正アクセス」なのだろうか。
結論としては、これは「不正アクセス」にはならない。不正アクセス防止法は、ネットワーク経由のアクセスでなければ「不正アクセス」にならない、としているからだ。スマホを直接操作して中のデータを覗く限り、「不正アクセス」は成立しないのだ。
だから、アプリ起動のロックも同様だ。解除しても「不正アクセス」にはならない。

スマホを勝手に操作してメール送受信等をすると「不正アクセス」

とはいえ、「犯罪にならない」のは、スマホのロックを解除してアプリを起動したり、既に受信されているメールを開いたりするところまでだ。メールを受信しに行ったりすると、相手のIDやパスワードでメールサーバーにログインしたことになるから、「不正アクセス」になる。
……では、スマホを操作している間に、勝手にメールアプリなどの自動巡回が行われた場合はどうだろうか。理論的に面白い問題だけど、結論としては、不正アクセスにはならないだろう。「そのアクセスを『誰が』行ったのか」の問題であり、少なくとも原則的には「自動巡回を設定した人(=スマホの持ち主)が行った」と考えられるからだ。

LINEを起動する前には「機内モード」にすべき?

この問題を進めていくと

・勝手にスマホを弄って、LINEなどを起動し、既にスマホ内に保存されているトークなどを読む
・LINEなどを起動する際に、そのアプリによって自動的にログイン認証が行われる

この二つは別の問題だ、ということになる。そして、前者は犯罪でないが、後者は不正アクセスだ、ということになる。ならば、LINEなどの起動前にスマホを「機内モード」に変更し、オフライン状態でLINEを起動すれば良い、ということだ。

スマホに勝手にアプリをインストールするのは犯罪?



少し前に炎上した「カレログ」や、自分のスマホに仕込んでおいて盗難紛失に備えるアプリを、相手のスマホに勝手にインストールするのは、いわゆる「ウイルス作成・供用罪」関係で危ない。
まず、いわゆる「ウイルス作成・供用罪」でいうところの「ウイルス」には、自己増殖能力などは求められていない。意図に反する不正な動作をするプログラムなら「ウイルス」、というような考え方が採られているからだ。
次に、「勝手にインストール」が「(ウイルスの)供用」かという問題だ。「ウイルス作成・供用罪」自体が2011年の刑法改正で新設されたばかりの規定なのでまだ何とも言えないが、少なくとも理論的には、「供用」だとする考え方も成り立ち得る。
……上述通り、「ウイルス作成・供用罪」自体ができたばかりの規定であり、「グレー」という感じなので、浮気をしている側としては「犯罪だ!」、された側としては「犯罪ではない!」と言い張りたいところだ。

「スマホに残っている情報」を狙うべし

以上より、浮気チェックをする場合、基本的な方針としては

・スマホに残っている情報を、勝手に操作するなどして得る分には基本合法
・証拠を作るためにアプリインストールなどを行うのは危ない

ということになる。
浮気をしている側から言えば、

・情報を残さないのが重要
・どうしても残さざるを得ないなら、なるべくローカルではなくオンライン上に

ということだ。

そもそもプライバシーの侵害じゃないの!?

……と、ここまでを読んできて、疑問を持った人もいるはず。「不正アクセス」とか「ウイルス供用」とかいう以前に、勝手に他人のスマホを見ること自体、プライバシーの侵害じゃないの!?という疑問だ。
しかし、プライバシーの侵害を、一般的に犯罪とする規定はない。プライバシー侵害は、それが同時に「不正アクセス」や「ウイルス供用」などに該当しない限り、犯罪ではないのだ。

プライバシー侵害は慰謝料を取られる

とはいえ、他人のプライバシーを侵害すると、精神的損害として慰謝料を取られることはあり得る。これが「民事」の問題であり、「犯罪ではないが、相手に訴えられると慰謝料を払う羽目になるかも」という問題だ。
しかし、二つのことを考える必要がある。
まず、相手のプライベートに関わる情報を覗いたとしても、常に「違法なプライバシー侵害」となって慰謝料を取られるわけではない。よく言われるのは、夫婦間ではそもそも期待されるプライバシーの程度が低い、という話だ。

しかし不倫の慰謝料より遙かに安い

次に、慰謝料を取られるとしても、それは不倫の慰謝料より遙かに安い、ということ。三つの「ケース」を例として考えよう。

ケース1:スマホを勝手に調べず、不倫を発見できなかった
→ 請求できる慰謝料0円
ケース2:スマホを勝手に調べたから慰謝料を取られるが、不倫を発見できた
→ 請求される慰謝料10万円、請求できる慰謝料200万円(差し引き190万円プラス)
ケース3:スマホを勝手に調べず、しかし不倫は発見できた
→ 請求できる慰謝料200万円

不倫された側からすれば、ケース1よりケース2の方が「得」だ、ということになる。
不倫した側からすれば、ケース3に比べればケース2の方が、トータルの差し引きで5%はマシだが、「たかだか5%」とも言える。

卑怯な手段で見付けた証拠を使うな!

スマホを調べられて不倫の証拠を掴まれた人が本当に言いたいことは、「そういう卑怯な手段で証拠が出たとしても、それは証拠として認められない!」ということだろう。
この主張は、法律的に言うと、いわゆる違法収集証拠の問題、ということになる。
ただ、法律的に言えば、違法に収集された証拠であっても、常に証拠として使えないわけではない。「著しく反社会的」な方法による場合のみ証拠として使えない、といった考え方が一般的だからだ。実際に、夫婦共有のPCを勝手に使って閲覧したメールを証拠として認めた裁判などがある。
不倫した側から見れば、「スマホはPCよりもプライベートだから、勝手に見るのは反社会的だよ!」「メールを見るより、アプリを勝手にインストールする方が悪質で反社会的だよ!」などと言うべき、ということになる。

法務博士 河瀬 季
東京大学 法学政治学研究科 法曹養成専攻 卒業。
2002年から「tokix」名義で、雑誌「ネットランナー」「PC Japan」への寄稿、書籍「iPod for コレクターズ」の全編執筆など、多数の雑誌・書籍における執筆活動を行う。2009年に東京大学の法科大学院(ロースクール)に進学し、2013年に司法試験に合格。

参考

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2013年07月01日21時54分 公開 | カテゴリー: ソーシャル | キーワード:, | Short URL
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